蓮池通信
子ども×神奈川県立美術館・鎌倉館

蓮池通信ブログ

本サイトは、横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校の子どもたちと神奈川県立近代美術館鎌倉館との交流から生まれました。 これまでの交流記録をはじめ、現在の活動の様子や子どもたち自身が日々感じていることをブログで少しずつ発信していきます。

ミナモの波紋のように、だんだん広がって、大きくなることを願って…。

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投稿者: grouprough

映画『二十歳の無言館』制作開始

2015.12.09 Wednesday



長編ドキュメンタリー映画『二十歳の無言館』

監修:窪島誠一郎(無言館館主)
監督:森内康博
企画:高松智行
制作:株式会社らくだスタジオ
出演:横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校
   2007年度卒業生有志
   窪島誠一郎



 私が子どもたちと「神奈川県立近代美術館鎌倉」を訪れたのは二〇〇六年のことです。それは、当時、私が横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校において担任した五年生の授業でした。学校生活に加えて塾や習い事と多忙な毎日を過ごし、ケータイやゲーム機、週末の娯楽まで大人から充てがわれる生活の中で、簡単で便利なもの、答えがあり分かりやすいもの、そうしたサービスに小さい頃から慣れ親しんでいる現代の子どもたち。そんな彼らにとって、日常とは一線を引く「静寂」や「個」が保障された空間の中で「美術作品」から自分の言葉を紡ぎ出し、直接仲間と分かち合う体験は、正に非日常体験でした。




そして、この体験の中で得た小さな実感の積み重ねが、六年生になった二〇〇七年には、子どもからの提案で「戦没画学生慰霊美術館 無言館」の学習に発展しました。日々の授業では、窪島館主の著書を精読し、画学生や同時代を生きた洋画家の作品を介した対話を重ね、夏には在来線を乗り継ぎ自分たちの足で無言館を訪問。秋には憧れの館主との交流授業を実現させながら、鎌倉から遠く離れた信州の地にある美術館と自分自身の距離を縮めた子どもたちは、八年後の「無言館の成人式」での再会を約束して卒業しました。

 一方、私は教育者としての立場上、これらの活動と併行して、美術館での鑑賞体験が子どもたちの将来に何を残すのか、数値化できないその成果について発信する場を設けてきました。しかし、そこでは、論の当否について直ちに検証できないことを知りながら、過剰に断定的になる自らへの違和感が増すばかりでした。そもそも「教育」とは「サービス」と異なり、成果が出るまで間に多くの時間を要するものです。それは、そこに行き交うものが「商品」ではなく、「人間」だからです。



 子どもの頃の鑑賞体験が、時の移ろいの中で、どのように変化し、どのようなカタチで表出するのか。
 私は、この素朴な疑問を前に、子どもたちが成人を迎える年まで、彼らが同じ美術館、同じ作品を鑑賞しながら成長していく過程を映像として残すことを考えました。





そして、彼らが中学生になった二〇〇九年には神奈川県立近代美術館鎌倉を舞台にした映画『Museum trip』を、高校入学を数日後に控えた二〇一一年には無言館を舞台にした映画『青色の画布-十五歳、もうひとつの無言館-』を企画し、映像制作会社らくだスタジオ(代表・森内康博氏)の協力を得てカタチにしてきました。




 映画『青色の画布』のラストシーン。小学校六年生の夏以来、三年ぶりに無言館を訪問した彼らは、溢れる気持ちをカメラの前で告白しています。「小学生の頃は画学生がかわいそうだと思っていたけど今は違う」「今回で無言館が哀しい場所ではなくなった」「自分自身をさらけ出せる画学生はかっこいい」「画学生の絵がキラキラして見えた」「自分が生きた証を残したい」「人の記憶の中に残りたい」「人に同調して生きるのはやめたい」「素のままで生きたい」「人と関わることでなりたい自分に近づきたい」…。戦時下という不条理な社会状況の中でも美術を通して「私」を表現した画学生と、思春期となり悩みの尽きない日常生活の中で「私」を見失いつつある自分自身を照らし合わせ、「表現」することに対して意識的になった彼らは、自分にとっての「表現」を未来に描きました。



 その告白から四年が経過した今、彼らは高校生活を終え、大学生や社会人としてそれぞれの日常を送っています。北は東北、南は九州。家族や友人から遠く離れ、一人で暮らす者もいます。学業、アルバイト、友人関係、恋愛、家族、そして将来のこと、恐らく日々の悩みは以前より増えた者もいるでしょう。それぞれの生活の中で、彼らは、四年前に描いた未来の自分をどのようなカタチで「表現」しているのでしょうか。また、彼らが、再び無言館に集い、画学生の作品を前にした時、何を感じ、どのような言葉を紡ぎ出すのでしょうか。



 時の流れは早いもので、今年は彼らが二十歳を迎え、無言館での再会を約束した年にあたります。八月には、映画の続編である『二十歳の無言館』の制作が始まりました。現在は彼らが暮らす街に赴き、その生活の様子を個別取材しています。来春には四年ぶりに無言館に集い、画学生の作品を鑑賞するとともに、窪島館主との交流を予定しています。映画の完成予定は来夏。その後、順次全国で上映会を開催していきます。約十年間の美術館を通した彼らの成長をみつめながら、「美術館」の存在意義とともに、「教育」という営みについて、今一度皆様とともに考える機会をつくりたいと思います。(高松)

無言館 | 21:43 | comments(0)

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